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★『月光綺譚』より~流星群の夜

 椅子に凭れて窓の外に映る星を眺めながらウトウトとして、気がつくと時計は21:30を廻っていた。

 もうこんな時間か

 月の綺麗な夜だったので、何だかこのまま眠るのも惜しいと思い、僕は散歩に出る事にした。クローゼットから上衣を取り出して、靴を履いた時に振り返って時計を見ると10分過ぎていた。
 そのまま外に出て、月明かりに照らされた舗道をいつもの四つ角の方へと歩いた。すると突然、目の前を一条の眩しい光がさっと通り過ぎた。一体何だったろうと思いながらそのまま歩いていると、シルクハットを目深にかぶった全身黒ずくめの紳士がこちらに近づいて、僕に声をかけてきた。

 ―私の連れを見なかったかね。ちょっと目を離した隙に逃げられてしまってね、、

 僕は何のことだかさっぱり分からなかったので、一体何の事だと訊ねると、紳士は

 ―だって今夜は流星群の夜ですよ

と、僕のすぐそばまで来て、耳元で囁いた。

 僕は何故だか一瞬ヒヤリとして、そう言えば今夜は牡牛座の流星群がやって来る日だった事を思い出した。ハッとして振り返ると、もう紳士はどこにもいなかった。

 気がつくと僕は靴を履いたまゝ椅子に凭れて微睡んでいた。時計は21:30だった。夢の続きでも見ていたのかと思ったが、馬鹿々々しくなってそのままベットに入って寝てしまった。
 
 きっと誰にでも自分だけの時間というものが、ある。





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★『月光綺譚』より~長い夜

 満月の晩に、誰もいない細い路地を独りで歩いていると、僕の歩く前方に自分の影が細長く伸びているのが見える。辺りはやけにしいんと静まり返り、ただ靴音だけが夜に溶け込むように響いている。それだから僕はいつしか自分の影を追いかけるようにして歩いていた、間延びした空気の中を。それにしても、さっきからずっと気になっていることがある。確かに今夜は満月だが、この影は少し長過ぎるんじゃないだろうか......その時、足元の影がひとりでにむくっと起き上がったかと思うと、僕の肩をかすめて隣の塀によじ登った。
 黒猫だ。

―おわあぁぁぁ

 猫は薄気味の悪い声で一声鳴くと、身じろぎもせずにじっとこちらを見据えている。僕は構わずそのまま行こうとしたら塀の上から声がした。

―待て

 振り向くと猫がまだこちらを見ていた。他には誰もいやしない。僕は猫に呼び止められるいわれはなかったので、また歩き出そうとした。すると背後から更に声がする。

―おわぁぁぁあ。お前は3年前の冬、今日と同じような時間にここを通った。3年後の満月の夜にもきっとここを通るだろう。

 僕はまたひとりで夜道を歩き出した(猫なんぞに関わっていられるものか)。ふと足元を見れば、地面に伸びる自分の影。やっぱりどうしても長過ぎる気がする..。




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★『月光綺譚』より~水晶の夜

 全てが硬質のもので出来ている夜、両手を上衣のポケットに入れながら独り坂道を歩いていると、やがて坂の向こうにオリオン星座が見えて来た。路傍には落ちた夜露が幾つも光っている。このまま坂を上って行くと、いつか空のオリオン星座まで辿り着けるような気がして、僕はどんどん歩いて行ったのだった。それで、ちょうど見晴らしの良い処まで来たものだから、ガードレエルにちょこなんと腰掛けて、暫し幾千もの街の灯を見下ろしていると、教会の尖塔に三日月が引っかゝっているのが見えた。おや!と思った時、突然僕の後ろの方から一陣の風が吹き上げたかと思うと、夜露の雫が空高くに舞い上がった。それは水晶の欠片であった。一筋の滑らかな線を描いてそれらは一斉に夜空へと飛び去って行く。それは即ちMilky-Wayである。

 その光景を見ながら僕は、"嗚呼、もう季節が変わるのだな"と、そんな事を感じていたのだった。




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★『月光綺譚』より~星座探しの夜

 タクトくんの家から歩いて帰る途中、人っ子ひとりいない深夜の路地をぽつぽつと歩いていると、向こうの十字路の真ん中に少年が立っていてじっと空を見上げているのだった。春にしてはまだ少し肌寒い夜のこと。

 「こんばんわ」

 「あぁ、こんばんわ」

 「君は其処で何をしているの?」

 「星を探しているんです」

 よく見ると、その手には星図盤が握られているのだった。この街にも星を探す人がいたのだと、僕は何故だかホッとした。

 「あれはアメヂスト座、この季節には、もうすぐ見られなくなる」

 はてな、そんな星座があったっけか、と考えていると、そんな僕を見透かしたように言うのだった。

 「いいの。どうせぼくが勝手に作った星座だから。だけど、どうしても見つからない星がある」

 「それはどんな?」

 「昨日失くした星」
 
夜道を歩きながら僕も考えた。僕も自分だけの星座を探してみようかな。夜空に浮かぶ星をじっと見ていると、自分は星の光で出来ているような気がして来る。ジッサイそうなのかも知れないが、今夜は何も考えずに眠ってしまおう。

 少年は星を見つけたろうか。


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★美とerosに就て

 “美”と“eros”―似て非なるものですが、しかしよく綯交ぜにされてしまうものであります。即ち、性の対象を“美しい”と表現してしまうあの感覚…厳密にいうとそれは“eros”であって、必ずしも“美”であるとは限らないというのに。“美”と“eros”との境界線を探るにあたって、まずそれらを切り離して考えるとするならば、対象となるのは女性では無くて男性―それも少年でなければなりません。性の対象であるか否かというところとは別次元で、然しながら其処に少なからず“eros”も介在するというその曖昧な境界線。
“eros”は往々にして生殖行動と直結する為、それだけ生産性が伴うといえます。逆に“美”にはそれがありません。即ち“美を追求する”という事は生産性を排除する事であるともいえそうです。“美”に執着するという事は、それだけ死に近づく事なのかも知れません。『ベニスに死す』のアッシェンバッハのように。。
 “美”と“eros”とを混同するその錯覚が無く、例えば“美”のみを感知し続けたならば、おそらく人類は絶えてしまう事でしょうから、その錯誤こそはきっと人の世の自然なのでしょう。そして“eros”の中に“美”を見出そうとする事は、何処かで生の果ての“死”を見ているのかも。そう思う時、誰の意思でもない宇宙意識の中で存在して居る事を実感したりもするのです。我々の感覚もまた、宇宙のそれなのだ、と。

 月光百貨店では"宝石を見詰める少年~少年美と鉱物と稲垣足穂的eroticsの夜"を開催中。同展は30日まで★

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