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★『月光綺譚』より~長い夜

 満月の晩に、誰もいない細い路地を独りで歩いていると、僕の歩く前方に自分の影が細長く伸びているのが見える。辺りはやけにしいんと静まり返り、ただ靴音だけが夜に溶け込むように響いている。それだから僕はいつしか自分の影を追いかけるようにして歩いていた、間延びした空気の中を。それにしても、さっきからずっと気になっていることがある。確かに今夜は満月だが、この影は少し長過ぎるんじゃないだろうか......その時、足元の影がひとりでにむくっと起き上がったかと思うと、僕の肩をかすめて隣の塀によじ登った。
 黒猫だ。

―おわあぁぁぁ

 猫は薄気味の悪い声で一声鳴くと、身じろぎもせずにじっとこちらを見据えている。僕は構わずそのまま行こうとしたら塀の上から声がした。

―待て

 振り向くと猫がまだこちらを見ていた。他には誰もいやしない。僕は猫に呼び止められるいわれはなかったので、また歩き出そうとした。すると背後から更に声がする。

―おわぁぁぁあ。お前は3年前の冬、今日と同じような時間にここを通った。3年後の満月の夜にもきっとここを通るだろう。

 僕はまたひとりで夜道を歩き出した(猫なんぞに関わっていられるものか)。ふと足元を見れば、地面に伸びる自分の影。やっぱりどうしても長過ぎる気がする..。




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